生涯教育への願い 略 歴 著 作 エッセイ 言 説 野村佳子記念館
イラク戦争における即時停戦のための万人のアピール | テロや戦争の悪循環を断ち切るための文明史的転換

米国本土における9月11日の同時的多発テロについて

テロや戦争の悪循環を断ち切るための文明史的転換


「あなた方の中で罪のない者が、まずこの女に石を投げつけるがよい」
(新約聖書 ヨハネ福音書 第8章)

 9月11日、アメリカ本土を襲った無差別同時多発テロは、多数の無辜の市民の命を奪ったという点で、絶対に許されざる行為です。
 犠牲となったアメリカ市民、同胞、多くの国の方々に対し、心から哀悼の意を表します。
 今、このテロリズムという憎むべき犯罪行為を根絶すべきであるという声が、アメリカを中心として世界各地で澎湃として湧き上がり、米国は軍事力を行使してテロリストとその拠点等、さらには彼らを支援する国をも攻撃しようとする準備を着々と進め、日本政府もそれを全面的に支持し、後方支援等の協力を行う旨を申し出ています。
 言うまでもなく、テロリズムは根絶されるべきであります。
 しかし、その根絶は上記のような手段をもって本当に可能なのでしょうか。
 テロの首謀者を排除し、活動の拠点を除去し得たとしても、それは新たなるテロを生む可能性を根絶したことにはならないのではないでしょうか。
 何故なら、テロリズムは、歴史的、宗教的、文化的、政治経済的、社会的、様々な要因の総合作用の中で生ずるのですが、人の心の中に生まれる動機にこそ、その根を持つものであるからです。
 動機が目的や結果を規定するのです。その動機を根絶することなくして、テロのない社会を作ることは永遠に不可能でありましょう。
 まして報復の名の下の武力行使は、テロによる悲惨な人々の死を上回り、さらに多くの罪のない人々を殺戮し、より不幸な、悲惨な状況を作ることになり、悪の循環は止まることなく殺戮は殺戮を繰り返す愚となります。
 これこそ人類の犯してきた愚かなる長い歴史であります。まさにこの根の深い人類の習性に、終止符を打つことこそ、今可能な、私たちに課せられた至上命令であリます。なぜならば、人の命は、何人も冒すことの出来ない尊厳の存在でありますから。
 愛する家族を、友人を殺された方々が、亡くされたことの大きな悼みや悲しみから、報復せずにはいられないのも、また人間がもつ心情であります。
 だからこそ、立ち止まり、私達一人一人が何を考えなければならないのか、叡智を結集すべき時であると確信致します。
 
 ここに、私は根本的解決のための必須である二つの要件を提起いたします。
 
 一つは、生命を生み出す母性原理に基づき、これ以上の殺傷は止めること。
 生命の尊厳は、人間の規定する敵味方の関係以前の価値であります。ですから生命を生み出す性は、生み出した生命の抹殺に対しては身を賭して護ります。そこには敵も味方もなく、生命の尊厳の冒涜を痛むが故に。

 一つは、日本古来からの精神の条理に基づいての提案です。
 現代社会の原理である二者峻別の理論から、東洋の二者相即の原理への転換を提起致します。
 峻別の理論は、二者を対立、抗争の枠組から脱却することを永久に不可能とします。東洋の二者を相即する原理は、唯一、両者を総合統一しえる立場を提示しています。

 この提起は以下の哲理に基づくものです。
 この現象世界に刻々と生起する様々な出来事は、全て例外なく因果律のもとにあります。原因なき結果はなく、また結果が新たな原因となっていくのであります。この度の、あの悲惨を極める“結果”を生んだ、その“原因”を深く、鋭く探ることなしに、報復を主たる動機として短兵急に攻撃を行えば、それがまた次のテロの“原因”となり、果てしなく悪循環を繰り返すことになります。
 
今回の事件を起したと目されるイスラム原理主義者達の行為の動機も、長く深い因果関係のつながりの中に見ていかない限り、その根を見つけ出すのは難しいでありましょう。
 思えば、我々人類は有史以前から今日にいたるまで、奪い奪われ、殺し殺されという行為を間断なく繰りかえして来ています。それは生物としての本能的攻撃性、エゴを基とし、欲望、怒り、恨み、ねたみ,そうしたものを動機として、因果の連環を積み重ねてきたのが人類の歴史であるといえます。
 ここに、ユネスコ憲章の前文に「戦争は人の心の中に始まる」といわれる所以があります。
 そうした行為の集積は、遺伝子を通して全ての人間が受け継ぎ、我々一人一人の意識の奥に層をなして潜んでいるのです。ですから、然るべき条件に出会えば、誰もが奪い、殺す可能性を秘めているのであります。今こそ、この長い悪循環に終止符を打つべきであります。
 “原因”を他者に見出そうとする限り、因果の鎖は断ち切られようがありません。長い闘いの歴史に、殺し合いの歴史に、終止符を打つためには、誰もが自己の内にその“因”を探り、それを取り除く努力をするしかないのです。

 たとえば、友人同士が喧嘩をしている時、その仲間入りをすることが正義だろうか。喧嘩をやめさせることこそが、最も智慧ある勇気なのではないだろうか。

 人間が、その無知と欲望と傲慢から覚醒し、真の「人間復活」を果たすことによって、テロリズムも戦争もない新たな文明を生み出すことこそが、未来への新しい創造です。
 この普遍的価値において、全ての民族が大同団結していく時、テロリズムの根絶を可能とし、犠牲者への真の追悼となることを信じます。


2001年9月24日、東京
(財)野村生涯教育センター
理事長 野村 佳子

 
公益財団法人 野村生涯教育センター
〒151-0053 東京都渋谷区代々木1-47-13
Tel: 03-3320-1861(代表) Fax: 03-3320-0360
Email: info@nomuracenter.or.jp / intl@nomuracenter.or.jp (for English)
このサイトに含まれる全ての内容の無断転用等を禁じます。
© 1997-2016 Nomura Center for Lifelong Integrated Education.