FOCUS
年頭にあたって
 新しい年、2006年が明けました。
 今年もよろしくお願いいたします。
 創設者野村佳子理事長亡き後、3年目の今年を迎えたわけですが、平成17年度中の3月には「長野県大会」を控え、11月にはいよいよ「第9回生涯教育国際フォーラム」を開催いたします。
 「国際フォーラム」は、野村理事長が子どもたちの未来を思い、世界を思って、東から西へ文化の橋を架けてこられ、世界に「野村生涯教育」の種を蒔いてこられた、その象徴とも言えます。そして第9回は、その理事長の思いの中で次世代が継承していくという、深い意味を持つフォーラムになります。
 私が後継の役をいただいたときから、国際フォーラムのことは当然視野にはありましたが、正直なところ、そのことを考えると私は卒倒しそうなほどの緊張を覚えるのです。そうした緊張感の中で、私たちは何を継承するのか、継承させていただいているのか、そうした思いの中で今年のお正月を迎えさせていただきました。
 私たちは、主婦という立場でボランティア活動をしておりますと、日頃家を空けることが多いわけですから、皆さん、お正月はたいへん忙しい毎日だったのではないかと思います。私は戦後生まれ、まして高度経済成長期に生まれていますので、すべてが便利になっていく中でお正月も簡単に済ませたいという気持ちも、一方でなくはないのですが、やはり息子にも日本の伝統、文化を伝えたいという思いでお正月を過ごさせていただきました。
 そして、御節料理やしめ飾りといった風習の一つひとつに意味があることをテレビなどで見聞きする中で、私たち庶民の生活の中で無自覚になっている伝統行事や慣習の中に、野村理事長の説かれる「物に心を入れて見る」日本人の精神性が宿っていることを改めて思ったわけです。
 特に戦後の私たち世代以降は、そうした伝統文化の真の価値に気づかないままに、利便性や合理性ばかりを追求する中で、それを面倒くさいものとして捨て去ろうとする風潮になってきていますが、それを大事に思えるようにならせていただいていることを改めてありがたく思いました。
 野村理事長はご著書『木もれ陽のなかに』で、三ガ日が終わって、お屠蘇の道具やお重箱などの漆器類を片付けられるときに、「ぬるま湯で洗い、3回は布巾で丁寧に拭くように教えられてきましたから。やはり昔からの伝統を守って、手数がかかっても手を抜きたくないと思います」と書いてくださっています。そして「今はとかく面倒くさいこと、体を使うこと、時間をかけることは避け、より早く効果を上げることが善とされる傾向にあるが、むしろその逆のことがこれからの社会に必要になってくるのではないか」というふうにおっしゃり、「科学万能では立ち行かなくなるこれからの時代を先取りして、ほんとうに大切なものは何か、ほんとうのゆとりとは、豊かさとは、ということをじっくり考えていくことが必要ではないだろうか」とおっしゃっています。
 今年のお正月、忙しい中で料理や片付けをすることに、私はほんとうに幸せを感じ、今≠ニいう瞬間に感謝できること自体が幸せなことなのだと思いました。そして、そうした精神を次代に繋げていくことがきっと大きな意味を持つことなのだと思いました。
 もう一つ思いましたことは、今度の冬は暖冬であるという予測に反して、今、日本海側の各地が豪雪に見舞われ、そうした地域の方々が大変な思いをされ、心からお見舞いを申し上げたいと思いますが、暖冬だと言われていた冬が、戦後一番の積雪という予想外の状況になっています。
 現代人は科学技術をも駆使して、より正確な予測をすることに努力をしています。しかし、それが追いつかないほどの激変と、予測のつかない危機的時代を私たちは生きているわけです。異常気象のみならず、社会的にもそれこそ想像だにしないことが次々と生起しています。それでもなお、社会は社会を分析し、世界を分析しています。
 人一人の人生を考えても、私たちはこの学校に入れば、この会社に就職すればこうなるだろうと予測したり、計画を立てたりします。一国の政策にしても、こう出れば攻められるだろうとか、だから軍備を持たなければならない、核を持たなければならないとか、むしろその予測をマイナスの方向に捉えて対処しようとする、それが現代の傾向になっているのではないかと思うわけです。そしてマイナスの結果が想定されると、それを前提に対処を考えるか、あるいは諦めるかで、それをプラスに転じようとはしない。
 しかし、考えてみれば、予測や予想というのは未来のことなのです。未来を予測していくら考えても、それは観念なわけです。
 私たちは、現在の、今の意識の積み重ねが未来を作るのだと教えていただいています。今≠否定したら、否定した未来しか生まれないですし、計画や予測を立てることは大事なことですが、しかし計画通り、予想通りにいかないのが生きる≠ニいうことであるはずです。大事なことは、起こってきた不都合なことをどう自分に受け止めるか、ということだと思います。
 私は、これを今の自分に課してお話ししているのです。先ほどお話ししたように、私は国際フォーラムのことを思うと、ものすごく緊張感を覚えるわけです。当然「やるしかない」と思ってはいますが、同時に葛藤する自分がいるのです。でも、どんなに考え、どんなに悩んでも、一歩一歩、一日一日しか進むことはできないし、現実を大事に受け止めていくしかないわけです。 
 そうした中、私はふと「では私の目的は何なのか?」と改めて思い返しました。目的は私自身、己自身なのですよね。国際フォーラムを通して自分が人間として成長すること、それが目的なのだと改めて思ったのです。
 自分にとってそれがどんなに高いハードルに思えても、自分に来た条件は自分にしかできない大事な経験なはずですし、その条件から未知なる可能性を引き出していただくことなのだ、それを通して社会へ、世界へ、ということなのだ、そう思えたら、少し心が落ち着いてきたように思います。
 「安全大国」と言われた日本も、今や警戒心や不信感が蔓延する国になってしまいました。危険な社会の中でその対処を考え、より警戒心を持ち、より不信や不安が増すわけです。その不安感や閉塞感の中で、より未来を諦めていく傾向になっているのではないかと思います。しかし、一人ひとりの人間が生み出している社会なのですから、一人ひとりが変えていかなければならないわけです。警戒すべき社会だからこそ、その警戒心を引き出し続けてきた人間が、人間の中にあるもう一つの側面、そこにも焦点を当てていくことが大事ではないかと思います。
 それは、人間は悪なる無限の可能性を持つと同時に、善なる無限の可能性を持つということです。その善なる可能性を引き出すには諦めがあってはできないのです。善なる可能性を引き出すには、継続と忍耐と努力が必要です。でも、本来人間自身が継続して存在しているわけですし、本来強靭なものを持っているのですから、必ずそれは引き出していけますし、私たちはそれを引き出していただいてきているのです。
 現代人は今よりも次を考えることが多いのではないかと思いますが、今≠ノ最善を尽くせる人間になりたいと思いますし、その今≠フ意識が環境を、未来を作っていくわけですから、今年もご一緒にそうした人間づくりをしていきたいと思います。
(1月10日、新年初顔合わせの挨拶から)
 
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